AI(人工知能)は、如何にして人類の親友になるか

AI(人工知能)は、如何にして人類の親友になるか

会話をするAIは現在でも多くありますが、文の意味を理解して会話しているわけではありません。
たいていは、あらかじめ登録された会話シナリオに沿って返答しているだけです。
なので、一時的に会話が成立したように感じることはあるかもしれませんが、長時間、会話が続くといったことはありません。
これでは、AIと親友となるのは難しいです。

それでも、ジャンルを絞り、返答も、特定のパターンに限られる質問応答形式の会話システムなら、比較的会話が成立しやすくなります。
たとえば、少年が「薬を盗んだ」と言えば、「10年以下の懲役、または50万円以下の罰金となります」などと答える法律AIは今でも可能です。

でも、罪を打ち明けた少年は、そういうことが知りたかったのでしょうか?
そんなAIと少年は心が通じるでしょうか?
そんなAIと少年は親友になれるでしょうか?

それでは、AIが少年の親友だったら、どう答えるでしょう。
こんな感じではないでしょうか。

少年  「薬を盗んだ」
AI   「どうして、薬を盗んだの?」
少年  「お母さんが、病気になったけど、薬を買うお金がなかったから。」
AI   「どうして、薬を買うお金もなかったの?」
少年  「母と二人暮らしで、お母さんが病気になって働けなくなって、お金が尽きたから。このままでは、お母さんが死んでしまうと思ったから、つい、薬を盗んでしまった」
AI   「そうか、そうか。 辛かったよね・・・」

これが、少年が言ってほしかった言葉です。
心があるAIって、こういうことです。
こんなAIなら、心を打ち明けることもできます。
親友になることもできます。

 

それでは、少年の気持ちを、正しく意味理解するにはどうすればいいでしょうか?
今回は、ロボマインド・プロジェクトの意味理解の仕組みについて説明します。

概要は以下の通りです。
 ①文脈の判定
 ②登場物の抽出
 ③登場物に属性の設定
 ④認知パターンの抽出

話を聞いたり、文を読んだりしたとき、これら①~④の処理を行います。
文脈の判定は、文の大まかな流れを判定するものです。文の大まかな流れは、

 原因 → 結果
 目的 → 行動 → 結果

のパターンで管理します。これらの要素が矛盾なく存在するかを確認します。
わからない要素があれば、質問して聞き出します。

②の登場物とは、その物語に登場する物や人のことです。
ここでいう物語とは、話し手が言いたいひとまとまりの出来事を指します。
登場物が、たとえば「机」なら、色や大きさといったことが属性となります。
登場物が人の場合、名前や性別が属性となります。
さらに、人は物とちがって、感情を持ち得ます。嬉しいや悲しいといった感情も属性として管理します。

登場物に属性の設定とは、②で抽出した登場物に属性を設定することです。

認知パターンの抽出とは、③で設定した登場人物の属性に基づいて、感情などの認知パターンを抽出します。
話し手の言いたいこととは、認知パターンで表現できます。この認知パターンの抽出によって、一つの物語が完結します。

 

それでは、少年の話を例に、プログラムで実際にどう実現するか説明していきます。
まずは、文脈が全て矛盾なくつながるかのレベルを検討します。

少年  「薬を盗んだ」

まず、登場人物として少年を登録します。
この少年は、「薬を盗む」という行動を起こしました。文脈に当てはめると、

 「不明」(目的) → 「薬を盗む」(行動) → 「薬を手に入れる」(結果)

となります。「薬を盗む」行動をしましたが、薬を盗む目的が不明です。そこで、

AI   「どうして、薬を盗んだの?」

と質問するわけです。すると、

少年  「お母さんが、病気になったけど、薬を買うお金がなかったから」

との返答がありました。ここで、お母さんが登場したので、登場人物に追加します。
お母さんは病気になったとあるので、お母さんの属性として「状態:病気」と設定します。
ここで、「薬」の意味を調べてみます。単語の意味は、システムのデータベースに書いてあります。データベースには、

 人(状態:病気) → 人:薬を飲む → 人(状態:健康)

と書いてあります。これは、状態が病気の人が、「薬を飲む」という行動をすると、状態が健康になる、つまり病気が治るという意味です。
ここから、お母さんが薬を飲むと、病気が治ることがわかります。

病気の人が病気が治りたいと思うのは本能の行動です。
お腹が空いたらご飯を食べたいと思うのと同じです。
人は、病気を治すように行動します。
これは、「~すべき」の行動となります。

先の文脈に照らし合わせると、「お母さんの病気を治す」という目的があって、「薬を盗む」という行動を起こしたことがわかります。
これで、少年が、なぜ、薬を欲しかったかの文脈が矛盾なく理解できました。

次は、薬を手に入れるのに、なぜ、盗んだかです。
「薬」は「商品」の下位概念です。概念に関しては、「言葉に意味をどう定義するか」の概念ツリーを参考にしてください。
「商品」を手に入れるのに、「買う」「盗む」「もらう」などの方法があります。
このうち、「盗む」の意味には「悪」と書いてあります。
少年は、薬を手に入れるために、悪い行為をしたことになります。

ここで「」「」について定義します。
」とは、「他者(他の登場人物)」にとって「プラス」になる行為をすることです。
「プラス」になるとは、その人が得をしたり、困っていることが解決したりすることです。
また、「善」は「~すべき」の行動といえます。

」とは、「他者」にとって「マイナス」になる行為をすることです。
「マイナス」になるとは、その人が損をしたり、困った状態になることです。
「盗む」は、その人の持っている価値のある物が無くなる状態になるので、「悪い」行為となります。
また、「悪」は、「~すべきでない」の行動となります。

人は、「善」を行うべきで、「悪」は行うべきではありません
これが社会です。
薬を手に入れるのに、「買う」のは問題ありませんが、「盗む」は悪い行為なので、行うべきではありません。
「買う」の意味を調べてみると、

 買い手:お金  売り手:商品 [買う] 買い手:商品 売り手:お金

と書いてあります。
これは、「買う」を実行すると、買い手の「お金」と売り手の「商品」が交換されるという意味です。
ここから、「買う」には、「お金」が必要となります。
ところが、少年は「お金がなかった」と言っています。

薬を得るには、薬を「買う」か「盗む」かの二つの方法があります。
「盗む」は「悪」なので、「買う」べきですが、お金がないから、薬を買えないわけです。
そこで、薬を得るための残りの方法として、「盗む」を選んだわけです。
これで、なぜ、薬を盗んだのか、矛盾なく説明できたので、次に移ります。

 

次は、「お金がない」という結果が出てきましたが、その原因が不明なので、その原因について質問します。

AI   「どうして、薬を買うお金もなかったの?」

すると、「母と二人暮らしで、お母さんが病気になって働けなくなって、お金が尽きたから」との返答がありました。
文脈に当てはめると、

 お母さんが働く(原因)→ お金を得る(結果)

という状態から、

 お母さんが働けない(原因) → お金がもらえない(結果)

になったことがわかります。

お金がもらえないとは、お金が少なくなる方向に向かうので、お金が尽きるにつながります。
「働けなくなって、お金が尽きた」の文の意味も、これで理解できます。

また、
 お母さんが病気になる(原因) → お母さんが働けない(結果)

という文脈も成立します。
これで、「お母さんが病気になる」から「薬を盗む」までが全て矛盾なく説明できました。
また、「病気になる」とは、「死」に近づくことです。ここから、「このままでは、お母さんが死ぬ」の意味も理解できます。
これで、物語の文脈が、すべて矛盾なく理解できました。

次は、認知パターンの判定です。
ここで使う認知パターンは、「善」「悪」の行動の組み合わせパターンです。

たとえば、「善」のために「善」を行うパターン
これは、たとえば、被災した子供たちにランドセルを送る(善)ために、アルバイトをしてお金を貯める(善)といった行動です。
これは、文句なく「善」の行動です。
この行動に対する返答は、たとえば、「それはいいことをしたね!」などとなります。

次は、「悪」のために「悪」を行うパターン
これは、たとえば、銀行強盗をする(悪)のために、拳銃を奪う(悪)といった行動です。
これは、文句なく「悪」の行動です。
この行動に対する返答は、「それは悪いことだよ」「そんなことは絶対にやってはいけないよ」などとなります。

次は、「悪」のために「善」を行うパターン
これは、たとえば、お婆さんからお金をだまし取る(悪)ために、お婆さんにやさしく(善)して信頼させるというパターン。
これも、いくらお婆さんにやさしくしても、だますのが目的なので、「悪」の行動となります。
この場合の返答も、「そんなことは、絶対やってはいけないよ」などとなります。

最後は、「善」のために「悪」を行うパターンです。
これが、今回の物語に当てはまります。
目的は、お母さんの病気を治すことです。
病気を治すことは、相手にとってプラスのことなので、「善」の行為です。
しかも、困ってる人、弱っている人を助けるのは、さらに「善」の行動となります。
しかし、そのために、「薬を盗む」という「悪」の行動をしていいわけではありません。
けれど、薬がなければお母さんが死んでしまいます。
「善」の行いをするために、「悪」の行いをしないといけないと悩むわけです。
このパターンの場合、その人は、「苦悩」の感情が出るわけです。

一番苦しんでいるのは、少年なのです。
そのことを理解してほしくて、少年は、親友に打ち明けたのです。
こんなとき、少年に最初にかけるべき言葉は、

「辛かったよね・・・」

となるわけです。

これが、相手の気持ちを理解するということです。
心を通わすということです。
AIと親友になるとは、こういう言葉をかけることができるようになることなのです。

 

決して、
「10年以下の懲役、または50万円以下の罰金になります」
などと言ってはいけないのです。
そんなこと、言われなくてもわかってます。
そんな友達とは、絶交しますよね。