自然言語処理への提言2 なぜ、自然言語処理は50年も進歩がないのか

自然言語処理への提言2 なぜ、自然言語処理は50年も進歩がないのか

2018.03.19
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前回は、自然言語処理、特に会話・対話といった分野が、この50年間、ほとんど進歩がない話をしました。
それでは、AIの他の分野は、どうなのでしょう?
いくつかの例を検証してみましょう。

まずは、画像認識です。
最初は、数字やアルファベットといった簡単な文字認識から始まりました。
その後、写真に何が映ってるかを判定する写真判定に挑戦しますが、精度の向上は伸び悩み、しばらく停滞します。
ブレイクスルーとなったのは機械学習です。
機械学習の中でも、ディープラーニングの登場で目覚ましい発展を遂げ、今では、写真判定では、人間より精度が高くなっています。
そして、画像認識の技術は、顔認証に使われたり、自動運転で、対向車や歩行者の判定などに応用されています。

チェスや将棋などのゲームはどうでしょう。
AIの分野では、最初は、迷路探索といった簡単なゲームから始まりました。
それが、チェスに挑戦するようになり、IBMのディープ・ブルーが人間のチェスのチャンピオンに勝ったのが1997年です。
その後、将棋や囲碁においても、ディープラーニングを取り入れることで、人間のチャンピオンに勝つようになりました。

 

さて、自然言語処理です。
自然言語処理の対話といえば、チューリング・テストが思い出されます。
将来、人と同じ心(知性)を持つAIが出現したとき、そのAIが心を持っているか否かを判定するのがチューリング・テストです。

方法は、今でいうチャットを使い、相手が人間かAIか区別がつかなければ、そのAIは人間と同じ心を持っていると判断できるというものです。
提案したのはコンピュータの父、アラン・チューリングで、1950年のことでした。

その後、世界で最初の対話システムとして登場したのは、1964年のイライザ(ELIZA)です。
仕組みは、前回説明したシナリオベースで、人工無脳の原型ともいわれています。
それから50年以上経って、IBMのワトソン、ソフトバンクのペッパー、スマートスピーカなど、多くの対話システムが登場してきましたが、すべてシナリオベースで動いています。
何も変わっていません。
相変わらず、人工無脳なのです。
これが、自然言語処理の現状です。

さて、なぜ、同じAIの分野で、自然言語処理だけ、何も進歩がないのでしょう?

その答えは明白です。

それは、目標があまりにも高すぎたからです。

人間と自然な会話ができるシステムとは、チューリング・テストに合格するシステムです。
つまり、人間と同じ心を備えて、初めて実現できるものです。
「人間と自然な会話できるシステムを作る」という目標は素晴らしいと思いますが、目標として高すぎます。

人との会話を目標設定にしてしまうと、最後に出力するセリフに、意識が集中してしまいます。
その結果、実際に意味理解させることより、あたかも会話が成立しているように見せるシナリオの工夫といった、小手先の技術ばかりに、開発リソースが割かれてしまいます。

いかにも女子高生がしゃべりそうな言葉を覚えさせたマイクロソフトのLINEチャットボット「りんな」を見れば、何を重点に開発しているかが明らかでしょう。
こんなことばかり続けているから、自然言語処理はこの50年、ほとんど進歩していないのです。

 

それでは、どうすればいいのか。

自然な会話ができるということは、人間と同じ心を備えていないとできません。
つまり、最後の出力のセリフ回しを工夫するより、人間の心を開発するのが先決なのです。

心を開発するといっても、心とはどういうものか、それがわかっているわけではありません。
そこで、心のモデルを模索することから始めないといけません。

つまり、中間的な目標設定として、心のモデルの開発を設定するのです。
「人間と同じ心のモデルは、どうすればできるのか?」
この中間の目標を共有し、競い合うことで、「人間の心」といった本質に迫ることができるのです。

どちらのモデルが、より、人間の心に近いか。
人間が感じる感覚を、どこまで心のモデルで再現できるか。
こういったことを競う環境が整えば、自然と、人間に近い心が生まれるでしょう。
それができて初めて、相手の気持ちを思いやって会話できるシステムが生まれるのです。

一見、少し遠回りに見えるかもしれませんが、人間と自然な会話ができるシステムを作るには、この順番で作るしかないのです。
少しジャンプすれば、なんとか届きそうな次の踏み石。
そういった適切な踏み石を、次々に設定してゴールを目指すべきなのです。
研究にしろ、人生にしろ、適切な目標設定は、とても重要です。

僕は、30歳になったとき、「ロボットの心」のアイデアを思いついて、プログラムの勉強を始めました。
最初は、実現不可能だと思えた研究も、十分な研究時間さえ確保できれば、必ず、実現できるという自信はありました。
そこで、まずは、自由に研究できる環境を作るという中間目標を設定しました。
そのために、AIとは関係のないシステムを開発したり、開発したシステムを売るためにマーケティングを勉強したりと、ずいぶん遠回りをしてきたように思えますが、結果的に、好きなだけ研究できる環境が整い、あと一歩で実現できるというところまで近づいてきました。

遠くのゴールだけでなく、適切な中間目標。
これをきちんと設定できないと、迷路に迷い込んでしまい、50年経っても、ゴールにたどり着けないことになります。
逆に、中間目標さえ適切に設定できれば、必ず、ゴールにたどり着けるでしょう。

次回は、「心のモデル」という中間目標について、具体的に説明します。

 

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