おバカAI仕様2 笑いをコンピュータで計算する
前回は、AIによる、笑いのオチの作り方について説明しました。
コンピュータによって、ランダムに単語を選べば、誰も思いつかない意外なオチを作れるという話です。
今回は、ランダムに言葉を選べば、何でも面白くなるのかについて検証してみます。
次の例文で考えてみます。
「お父さんが、駅まで、傘を持って迎えに来ました。」
雨が降ってきたけど、中学生の娘は、今朝、傘を持って行かなかったなぁ。
そう心配したお父さんが、駅まで迎えに行ったという状況です。
この例文の「傘」を別の単語に置き換えて、どれが面白くなるか調べてみましょう。
1.辞書
「お父さんが、駅まで、[辞書]を持って迎えに来ました。」
全然、面白くないですねぇ。
普通の文です。
「辞書」を忘れたのかな?と思うだけです。
意外性は、まったくないですねぇ。
2.葉っぱ
「お父さんが、駅まで、[葉っぱ]を持って迎えに来ました。」
ちょっと、面白くなってきました。
どういう状況か、意味がわからないです。
意外性は出てきました。
「ちょと、お父さん、何持ってきてるの?」
娘さんが、怒り出すレベルです。
3.ほっけ
「お父さんが、駅まで、[ほっけ]を持って迎えに来ました。」
これは、笑えますね。
意外性は、かなりあります。
ほっけをもって駅に迎えにきたお父さんを思い浮かべると、より笑えます。
娘さんが、見て見ぬふりをして、雨の中、走って家に帰るレベルです。
正解は、「ほっけ」です。
それでは、解説していきましょう。
「オチ」というものは、文字通り、上から下の状況に落ちることです。
予想していた状況から、下の状況に落ちた時、笑いが生じます。
では、「上」の状況とか「下」の状況とはどういうことでしょう?
「上」の状況とは、価値が高いとか、憧れの存在です。
「下」の状況とは、価値が低かったり、見下す存在です。
これが、「笑い」の基本になります。
ダジャレというものがあります。
ダジャレは、言葉の発音が近い語をつなげた言葉遊びです。
発音が近いというだけで、予想していた言葉と全然違う言葉が出てきたことを面白がります。
おやじギャクというのは、ほとんどがダジャレですよね。
ダジャレには、面白いダジャレと面白くないダジャレがあります。
なぜ、面白くなったり、面白くなくなったりするのでしょう?
それは、単に、発音の近い別の語を結び付けただけになっているからです。
笑いの基本は、上から下への落下です。
単に、意外な言葉が出てきただけでは、笑いになりません。
意外性だけでなく、上から下への落下が必要なのです。
試しに、おやじギャクで検証してみましょう。
「おやじギャク」で検索して、最初に出てきたのは、これです。
「アルミ缶の上にあるミカン」
典型的なダジャレですよね。
「アルミ缶」と「あるミカン」と、言葉をかけているだけです。
ミカンがあるって、普通の状況です。
落ちる要素がないので、何も面白くありません。
面白そうなおやじギャクを探しましたが、なかなか見つからず、ようやくちょっと面白いのを見つけました。
「こんばんわき毛」
ちょっと笑いました。
どこが面白いかというと、わき毛ですよね。
あまり品のいい言葉とはいえないです。
「こんばんは」のあいさつから、落差が生まれたので、面白くなりましたね。
笑いを起こさせるには、いかに、大きく落とすかがポイントとなります。
つまり、できるだけ「下の状況の言葉」を持ってくることが重要なのです。
僕は、この「下の状況の言葉」を、「ポテンシャルエネルギーが高い言葉」と呼んでいます。
笑いとは、いかに、ポテンシャルエネルギーの高い言葉をぶつけるか、これにつきます。
それでは、ポテンシャルエネルギーの高い言葉とは、どういった言葉なのでしょう?
先ほどの例文を参考に、もう少し厳密に定義していきましょう。
1.「辞書」
これは面白くなかったですねぇ。
つまり、ポテンシャルエネルギーが低い語となります。
「辞書」って、難しい言葉を調べるのに使います。
辞書からイメージする状況とは、勉強とか、研究とか、教授とか、そんなイメージです。
勉強とか、研究とか、価値が高いものなので、ポテンシャルエネルギーが低くなるのです。
こういった言葉は、笑いには結び付きません。
2.「葉っぱ」
これは、ちょっと笑えますよね。
まず、価値が低いですよね。
道に落ちてます。無料(ただ)です。
では、ただよりポテンシャルエネルギーが高い言葉とは、いったい何でしょうか?
それは、3.「ほっけ」です。
試しに、「ほっけ」と口に出して言ってみてください。
それだけで、ニヤけてしまいますよね。
いかに、「ほっけ」が、ポテンシャルエネルギーが高い言葉かわかるでしょう。
次回は、「ほっけ」がなぜ、ポテンシャルエネルギーが高いかについて、その謎に迫っていきます。