動詞の意味はどうやって定義するの? 前編
前回の話をまとめると、意識は、仮想世界を認識します。
仮想世界は、時と場所からなる場面を持ち、場面の中で出来事が展開されます。
出来事とは、何かが起こったということを表し、動詞を中心に組み立てられます。
次は、出来事の中心となる動詞について考えてみましょう。
動詞の意味は、仮想空間上に配置された物や人物オブジェクトを変化させることです。
「箱にボールを入れる」という文なら、最初、箱の外にあったボールを、「入れる」という動詞を実行させることで、箱の中にボールを配置します。
このボールの箱への移動が「入れる」という動詞の意味です。
それでは、どうすればAIに動詞の意味を理解させることができるでしょうか?
逆に、何が分れば、動詞の意味を理解したと言えるのでしょう?
一つの方法として、動詞の使い方として間違った使い方をしたとき、それを指摘できれば、その意味を理解できたと言えるでしょう。
では、動詞の間違った使い方とはどういうことでしょう?
それは、文を解釈しても、仮想空間上にオブジェクトを生成できない場合などです。
たとえば、文法的に間違っている場合だったり、物理的に不可能な場合だったりといったことです。
こういった問題がなく、すべての条件を満たして初めて、動詞の動作を実行できるのです。
つまり、動詞には、複数段階の実行可能条件が存在するわけです。
それでは、動詞「入る」の実行可能条件について、段階を追って定義していきましょう。
前に説明したように、意味理解は、大きく「言語世界」段階と「仮想世界」段階に分けられます。
まずは、「言語世界」段階の実行可能条件から見ていきましょう。
「入る」の実行可能条件(言語世界)
第1層 文法レベル
ルール:主語は名詞
これは、主語として取り得る品詞は「名詞」のみというルールです。
このルールによると、たとえば、「歩くが入る」という使い方は、文法的におかしいとエラーを出します。
意識は、文法レベルでエラーが出ると、「『歩くが入る』って、文法的に意味が分からない」などと返答します。
文法的におかしいので、仮想世界を構築することすらできないので、それ以上、解析を進めることはできません。
文法レベルで問題なければ、次の構文要素レベルの解析に進みます。
第2層 構文要素レベル
ルール:「入る」に必要な構文要素は「主語」と「目的場所」
構文要素とは、構文解析した結果の要素のことで、主語とか、目的場所、手段などです。
たとえば、「~は」「~が」に当たるのが主語で、「~へ」「~に」に当たるのが目的場所です。
「入る」という動詞に必要な構文要素として主語と目的場所が必要というのが、ここでのルールです。
つまり、「何が(入るか)」と、「どこに(入るか)」が必要という意味です。
動詞ごとに、最低限必要な構文要素が登録されていて、構文解析結果を基に、必要な要素が存在するかどうかチェックします。
たとえば、「箱に入った」という文なら、「何が」が不明なので、「何が箱に入ったの?」と聞き返します。
「ボールが入った」なら、「どこにボールが入ったの?」と聞き返します。
必要な要素がすべて存在していれば、次の描画レベル段階に進みます。
第3層 描画レベル
ルール:絵に描けるか描けないか
たとえば、「頭痛が箱に入る」という文は、主語が名詞なので文法的には正しいですが、イメージできません。
絵が描けるかというのは、頭の中でイメージできるかということです。
「入る」という動詞の主語、目的場所として取りうるのは、どちらも「具体」概念以下と定義しておきます。
そうすると、「頭痛」は具体概念でなく、抽象概念なので、描画レベルでエラーが出ます。
意識は、描画レベルでエラーが出ると、「『頭痛が入る』とはイメージできません。」などと答えるわけです。
ここまでが、言葉でしか表現できない言語世界となります。
言語世界でおかしいと判断されるものは、すべてイメージすることができません。
これは、オブジェクトとして仮想世界に生成できないという意味です。
言語世界で問題ないと確認して、次の仮想世界段階に進みます。