おバカAI仕様4 笑いをコンピュータで計算する
今日は、「物語」についてです。
僕が、「物語」について、深く考えるようになったきっかけがあります。
今から20年以上前、ダウンタウンが一番面白かったころのことです。
当時、深夜にダウンタウンの大喜利番組がありました。
ある時、一題のお題が出題されました。
そのお題が、これです。
「ある日、肛門が突然しゃべりはじめました。
さて、初めてしゃべった言葉は、何でしょう?」
お題だけでも笑えてきます。
その時、大笑いしたのが、板尾創路の回答でした。
回答
しみじみと、
「あぁ、あんなこと、言わんかったらよかったなぁ・・・」
この回答に、深夜に一人で大笑いしたのを覚えています。
後からよく考えてみれば、「初めてしゃべった」のに、「あんなこと言う」って・・・。
前に一回にしゃべってるやん。
初めてしゃべったんちゃうやん。
そこがツッコむところだと思うのですが。
その時は、そんなこと考えずに、聞いた瞬間、なぜか、大笑いしていました。
「笑い」について考えていた当時、なぜ、この回答は笑えるのだろうと、ずっと考えていました。
そこで思い至ったのが「物語」です。
ここから、僕は、「物語とは何か」について、深く考えるようになったのです。
それでは、解説します。
「あぁ、あんなこと、言わんかったらよかったなぁ・・・」
この回答が、なぜ、面白いのでしょう。
彼が、何を言ってしまったのかは、わかりません。
おそらく、その時、興奮していたのでしょう。
感情的になっていたのでしょう。
つい、思ってもないことを口走ってしまったようです。
言った後、すぐに後悔しました。
その時、すぐに謝れば、まだ、よかったのですが・・・。
気まずくなって、そのまま別れてしまったのでしょう。
家に帰ってからも、そのことが頭を離れません。
今すぐ、電話して謝ろうか?
いや、今さら、かっこ悪くて、そんなことできるはずがない。
そんな自問自答がずっと続きます。
ベッドに入って寝ようとしても、なかなか眠れません。
あのときの言葉が頭の中をぐるぐる回って離れません。
気が付いたら、もう朝です。
そんなとき、つい、出てきた言葉が、これです。
「あぁ、あんなこと、言わんかったらよかったなぁ・・・」
どうでしょう?
この言葉を聞いた瞬間、僕の頭の中に、こんな物語が展開されました。
これが「物語」の強さです。
前回、ポテンシャルエネルギーの高い言葉の例をいくつか説明しました。
今回は、ポテンシャルエネルギーが最も高くなる言葉です。
それが、「物語を生じさせる言葉」なのです。
この場合、「あんなこと」を言った瞬間から、後悔している今に至るまでのストーリーが一瞬で展開されるような言葉です。
物語には、このような時間の流れが存在します。
前回説明したポテンシャルエネルギーの高い言葉は、落差が大きくなる言葉でしたが、時間の流れは存在しません。
これが、「物語を生じさせる言葉」との一番の違いです。
短い言葉をきっかけとして、一気に物語が展開される瞬間。
これが、物語の面白さです。
小説の場合でも、ラストシーンで、今までの伏線が一気に回収される瞬間。
これが物語の醍醐味でしょう。
「物語を生じさせる言葉」の場合でも、今まで説明したポテンシャルエネルギーの条件も満たしている必要があります。
「肛門がしゃべりだしました。さて、何といったでしょう」
というお題を聞いたときには、それだけで笑えます。
自然と、笑える状況を思い浮かべてしまいます。
それが、
「あぁ、あんなこと、言わんかったらよかったなぁ・・・」
という言葉で、一気に、暗い、悲しい状況に落ちていきます。
暗い、悲しいは、ポテンシャルエネルギーの高い状況です。
「あんなこと、言わんかったらよかったなぁ」という具体的なセリフ。
これも重要です。
「後悔するようなことを言った」のような具体的でない言葉では、物語が動き出しません。
具体的でリアリティのあるセリフ、これがきっかけで、物語が走り出すのです。
突然、思ってもみない物語が立ち現れ、得も言われぬ面白さが生じるのです。
物語を伴った意外な展開、これが、20年ほど前、松本人志が完成させた新たな笑いなのです。
次回は、ようやく、「サンタさんてさぁ・・・」の解説をします。