コンピュータで文の意味を理解しよう 「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」批評4

コンピュータで文の意味を理解しよう 「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」批評4

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コンピュータ(CPU)の中には、足し算回路や掛け算回路といった演算回路があって、プログラムは、最終的にこれら演算回路で処理されます。
人間の脳にも、CPUの演算回路に相当する回路があって、意味理解とは、最終的に、それらの回路で処理することに他ならないという話を前回しました。
そして、ウェイソンの4枚のカード問題から、ズル検出回路が、脳にある演算回路の一つだとわかりました。

僕の考えでは、脳の中の演算回路は、ズル検出回路以外に、「嬉しい」や、「悲しい」といった基本的な感情があると考えています。
その他に、「感謝」や「善悪」といったものが考えられ、これらを総称して「認知パターン」と呼んでいます。
そして、意味理解とは、どの認知パターンに対応するかを計算する処理だと言い換えることができます。

たとえば、
「太郎は、誕生日に、お父さんからプレゼントをもらった」
という文は、
「プレゼントをもらう」→「嬉しい」
という認知パターンを適用すると、
「太郎は嬉しい」
と変換できます。
つまり、「太郎は、誕生日に、お父さんからプレゼントをもらった」の意味は、「太郎は嬉しい」となるわけです。

前回説明した意味理解の第一の定義に、「情報量の減少」がありましたが、この点からみても、処理の前後で情報量が減少しているので、意味理解しているといえます。

 

意味理解は、この「認知パターン」を中心とした心の世界で解釈されます。
心の世界を理解するために、物理世界と比較してみましょう。

物理空間でボールを投げたとします。
ボールは、投げた方向に飛びますが、重力が作用するので、放物線を描きながら飛んで落下します。
投げた力と方向がわかれば、どのように飛んで、どこに落ちるか予測できます。
これは、物理の力学を理解しているから、予測できるといえます。

同じように、心の法則を理解できれば、人間の行動を予測できます。
心の法則とは、認知パターンによる力学のことです。

認知パターンは、快/不快に還元できる感情を含みます。
あらゆる生物は、不快を避け、快を求めて行動します。
快とは、食料を「食べる」といった肉体的なことから、「嬉しい」といった感情、「名誉」などの社会的な地位などが考えられます。
不快とは、逆に「空腹」「悲しい」「不名誉」などです。

「感謝」や「怒り」といった認知パターンは、少し複雑です。
「感謝」は、自分に「快」をもたらせてくれた人に対して起こる感情です。
「怒り」は、自分に「不快」をもたらせた人に対して起こる感情です。

認知パターンは、いわば心の力学で、誰からどういう力を受け、次にどういう行動するかがわかります。
「感謝」の場合、快をもたらせてくれた人に「ありがとう」と感謝の言葉を言ったり、その人に快を与える行動をしたりします。
「怒り」の場合、不快をもたらせた人に対して怒りの言葉を言ったり、その人に不快を与える行動をしたりします。

物理法則でボールの飛ぶ方向や落ちる位置を予測できるように、心の法則で、その人の次の行動を予測できるわけです。
これが意味理解の第二の定義の「行動の予測」です。

 

このような「認知パターン」を中心とした心の世界を作れば、意味理解可能となります。
このようなシステムのことを「心のプラットフォーム」と呼ぶことにします。

心のプラットフォームは、人、物を配置する「世界」を持ちます。
物が存在するということは、世界は、3次元空間で成り立っています。

物は3次元空間内で動きます。
「動く」とは、時間に応じて位置が変化することです。
つまり、世界には時間が存在します。

人は、心を持ちます。
心の機能は、認知パターンを検出することです。
心が認知パターンを検出すると、それに基づいて、人は行動します。

心のプラットフォームは、人、物、認知パターン、行動で構成されます。
文の意味を理解するとは、文を単語に分解して、人、物、認知パターン、行動に割り当て、心のプラットフォーム上に再構築することと言えます。

 

「太郎は、誕生日に、お父さんからプレゼントをもらった」の文を心のプラットフォームに再構築すると、認知パターンとして、「太郎は嬉しい」とか、「太郎は、お父さんに感謝する」などが抽出されます。
これが、文の第一の意味となります。

「感謝」という認知パターンから、「太郎はお父さんに『ありがとう』と言う」という行動が予測できます。
これが文の第二の意味となります。

これを会話システムに適応したとすれば、たとえば、太郎君が「誕生日に、お父さんからプレゼントをもらったよ」といえば、「おとうさんに感謝しないといけないね」とか、「お父さんに、ちゃんと、ありがとうと言った?」といった返答ができます。
まさに意味理解した会話システムとなるわけです。

なお、ここでは、3次元空間の世界を例に心のプラットフォームを説明しましたが、世界は3次元空間に限りません。
たとえば、政治の世界は、左右(保守・革新)の軸を持った世界となります。
政治の世界に配置された人や政党は、右寄りか左寄りかの軸で語られます。
なので、「『立憲民主党』は『自民党』より2文字長いなぁ」などと言えば、政治のことを理解していないと思われるわけです。

 

以上を踏まえて、「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」に戻ってみましょう。
この本には、意味理解できない例がいくつか取り上げられていますので、次回は、これらを意味理解に挑戦してみましょう。

 

YouTubeも併せてご覧ください。

 

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